医学物理士会会長 遠藤真広 平成22年4月

最近、関係各位のご理解とご努力により医学物理士の現場進出が少しずつ進み出しましたが、これに対して一部の方から「国家資格者でない医学物理士が治療計画や治療装置の品質管理という医療行為を行うのは、(医師の監督下でも)違法である」という主張がなされ、不安を抱いている医学物理士の方が居られると思います。しかし、この主張は、「がんプロフェッショナル養成プラン」に示されるような医学物理士を増やすという国の政策と矛盾し、また法的解釈としても誤っています。ここでは、国家資格者でない医学物理士の業務の妥当性と国の姿勢について解説します。

 上記に示される治療計画は、実際は医学物理士単独で行うのではなく、医師の監督下にその補助として行われるものであり、医学物理士の業務は医師の指示したターゲットに処方線量を照射する治療計画案を作成することやその検証作業です。医学物理士が作成した治療計画案を採用するかどうかの判断は医師に委ねられます。

このような治療計画に関わる作業や治療装置の品質管理は、人体に対する侵襲行為ではなく、その全てが医療行為かどうかは議論のあるところです。しかし、仮にこれらの行為が医療行為であるとしても、医療行為であるから国家資格のない医学物理士ができないということにはなりません。

医療に関わる様々な業務には、医師法や診療放射線技師法(およびその下位の省令、通知等を含む)など国家資格を規定する法令体系の中で、特定の資格者の独占業務に規定されているものとそのような規定のないものがあります。独占業務の例としては、診断や治療を目的として人体に放射線を照射することがあり、それができるのは、医師、歯科医師、および(それらの者の指示の下に)診療放射線技師のみです。一方、治療計画や治療装置の品質管理は、特定職種の独占業務とは規定されておりませんので、医師の監督下に、その補助として行うのであれば、国家資格者でない医学物理士が行うことが違法性を有するとは言えません。

国(厚生労働省)もこのような考えに沿って、医学物理士が関わることがふさわしい高度な放射線治療を安全に提供するための業務を積極的に認め、その人員配置を進めるために一定の診療報酬を認める方向に進み出しております。平成20年4月の診療報酬改定(厚生労働省告示)において、体幹部定位放射線治療と強度変調放射線治療に対して、通常の放射線治療よりも高額の診療報酬が定められております。ここで、診療報酬請求できる施設は一定の基準を満たす必要があり、その施設基準(保険局医療課長通知)には「放射線治療における機器の精度管理、照射計画の検証、照射計画補助作業等を専ら担当する者(診療放射線技師その他の技術者等)が1名以上配置されていること。」とあります。この疑義解釈(事務連絡)の中で、「その他の技術者等とは、医学物理士、放射線治療品質管理士等を指す。」と明示されております。やや複雑な構成ですが、これは「体幹部定位放射線治療と強度変調放射線治療においては、(国家資格の有無にかかわらず)医学物理士が機器の精度管理、照射計画の検証、照射計画補助作業等を行うことに対して(間接的ではあるが)一定の診療報酬を支払う」ことを意味します。また、平成20年3月に改定されたがん連携拠点病院の整備に関する指針では、上記の精度管理等を行う専任かつ常勤の技術者等を1名以上配置することを要件としています。この技術者等の中に(国家資格の有無にかかわらず)医学物理士が含まれるのは上の議論から明らかです。

さらに、平成20年4月の診療報酬改定においては、医療機器安全管理料2も新設されました。これは、「放射線治療機器の保守管理、精度管理等の体制が整えられている保険医療機関において、放射線治療計画を策定する場合」に診療報酬を認めようとするものです。この施設基準では、「放射線治療に係る医療機器の安全管理、保守点検及び安全使用のための精度管理を専ら担当する技術者(放射線治療の経験を5年以上有するものに限る。)1名の配置」が求められています。この「技術者」は、具体的には示されておりませんが、この診療報酬が過去の一連の過誤照射事故に対する国の対応であることを考えると、「放射線治療品質管理士」を意味すると考えるのが適切でしょう。医学物理士で放射線治療と放射線治療品質管理に一定の経験があれば、「放射線治療品質管理士」の資格を取ることができます。したがって、(放射線治療経験5年以上を有する「放射線治療品質管理士」資格を持つ)医学物理士が、放射線治療に係る医療機器の安全管理、保守点検及び安全使用のための精度管理を専ら担当した場合、(国家資格の有無にかかわらず)一定の診療報酬が支払われます。

以上をまとめると、(国家資格の有無にかかわらず)医学物理士は治療計画や治療品質管理を医師の監督下にその補助として行うことができます。また、国もその業務を積極的に認める方向に進み出していて、上で述べたいくつかの場合に診療報酬を支払うようになっています。したがって、冒頭に述べたように、医学物理士の業務遂行に対して、「違法でないか」という不安を持つ必要はありません。

しかし、ここで述べたことから分かるように、これらの業務は、医学物理士に限らず、医師がその能力があると認めた者であれば、(診療報酬は支払われないかもしれませんが)誰にでもできます。したがって、医学物理士の資格があることに安住せず、日々研鑚に務め医師の信頼を得ることが必要であり、自らの立場を維持し発展させるために最も重要であることを認識しなければなりません。