日本医学物理士会会長に就任して

日本医学物理士会長  遠藤 真広 平成20年4月

私は昨年(2007年)4月の日本医学物理士会の総会で、会長に選出されました。すでに1年近くを経過していますが、医学物理士会の会報が発行されるにあたって、改めて就任の抱負を述べたいと思います。 医学物理士会は長い間、医学物理士の親睦と情報交換の場として機能してきました。医学物理士の数が100名前後の数年前までは、それで十分に役割を果たしたといえます。しかし、最近のように毎年、新規に認定される医学物理士が50名を越えるようになっては、親睦と情報交換だけでは医学物理士の団体として、十分な役割を果たしているとはいえません。日本医学物理士会は、他の資格者の団体と同様に、医学物理士の職能団体として、社会に対して医学物理士の存在意義をアピールし、また医療現場で医学物理士が活躍できるよう運動していく必要があります。医学物理士の能力向上のため、様々な研修を企画していくことも必要でしょう。昨年の秋の臨時総会で、従来の会則を廃止して新たに定款を制定したのは、親睦と情報交換の場から医学物理士の能力向上と職域の確立を目的とする職能団体への転換を宣言したものといえます。

医療の場で働くためには、相互に研修し能力向上を図るのは当然ですが、もう一つの目的である医学物理士の職域をどこに求めていくべきでしょうか。私は、当面、放射線治療分野を突破口と考え、その中で治療QAと治療計画(特に高精度放射線治療や小線源治療に対する)を守備範囲として主張していくことが必要であると考えています。放射線治療は、患者に固有の問題がしばしば起こるため、治療にあたる医師も判断に迷うことが良くあります。このような際に放射線物理を熟知し、線量分布計算に詳しい医学物理士の参加は、治療水準の向上に大きく寄与すると考えます。また、装置やシステムの物理・技術的QAは、長い間、医学物理士が大きな役割を果たしてきた分野であり、その経験を医療現場でさらに生かしていく必要があります。

社会もこのような医学物理士を求め始めています。昨年は「がん対策基本法」が施行され、それに伴い「がん対策基本計画」が閣議決定されました。この基本計画の中では、「特に、放射線療法については、近年の放射線療法の高度化等に対応するため、放射線治療計画を立てたり、物理的な精度管理を支援したりする人材の確保が望ましい。」という文言が盛り込まれ、医学物理士の必要性が認識されています。また、昨年度から始まった「がんプロフェッショナル養成」では、多くの大学院が医学物理士の養成を計画しています。さらに、本年(2008年)4月に行われる診療報酬改訂では、人員配置など一定の基準を満たす治療施設に対して、治療QAやIMRTの治療計画などに点数を認めることになると聞いています。

以上が職域の確立に関する私の考えと最近の情勢ですが、ここで少し話題を変えて医学物理士のバックグランドの多様性について述べておきます。良くご存知のように、我が国の医学物理士は理工系の出身者と医療技術系(診療放射線技師有資格者)とから成り立っています。我が国の医学物理士認定制度は2003年に改訂され、医療技術系出身者に道を開きました。我が国の診療放射線技師教育は大変に優れていて、専門学校レベルの欧米に比べ、大学学部レベルは勿論、大学院レベルの教育まで行っています。また、診療放射線技師のうち優れた人たちは、欧米の医学物理士に匹敵する実績と能力を有します。前述の認定制度の改訂は、このような人たちの能力を生かすべく行われたものであり、これが医学物理士数増大の一番の要因となったことは、良く知られています。

しかし、出身の違いは相互の対抗意識を産み、医学物理士数が増加してくると、ときに摩擦を生ずることもあるようです。私の見るところでは、両者それぞれ特徴があります。その長所を組み合わせていくことにより、欧米に負けない医学物理士集団を産み出し、我が国の医療や医療産業に大いに貢献できるのではないかと考えています。バックグランドに多様性を有する集団の方が、単一バックグランド集団より、しばしば優れた働きをすることは、歴史の教えるところです。これから数年は我が国の医学物理士制度にとっては、まさに正念場であり、医療に定着するかどうかもこの数年の我々の努力にかかっているとまで考えています。会員各位のご協力を切にお願いいたします。